食品偽装にみる知的財産

こんにちは、みなさん。弁理士の鶴本祥文と申します。
まずは簡単な自己紹介を。
弁理士になって8年目の中堅?知財実務家(関西在住)です。扱っているのは主に商標ですが、他の分野も広く興味を持って携わっています。特に、知財の価値評価やブランド戦略に関心があり、各種団体で研究の日々をおくっています。生まれも育ちも四国の野球少年で、大好物は豆腐、豆類(多分、前世はリスか何かだったのでしょう)。今の趣味は食べ歩き、映画鑑賞、知財研究(大げさですが)です。ということで、趣味と仕事を少しは両立できているのかなあと個人的には思っています。

さて、本題に戻ります。これまでのコラムは、「音の商標」、「オリンピック標章の保護」というように、どちらかというと楽しい話題でしたね。今回は、巷で大きな問題となっている食品偽装の問題を取り上げたいと思います。

食品偽装の問題としては、中国産等の食品をそれ以外の産地として偽装する、産地偽装が挙げられます。この問題に対して、知的財産はどのように関わっているのでしょうか。

j0430079.wmfこの問題の中核は、信用、信頼、特に信用、信頼への懐疑という点にあるといえます。信用、信頼は、形にないものですので、なかなか捉えにくいです。そのため、この捉えにくい信用、信頼は、種々の表示を通じて私たちに伝えられています。となると、既にお気づきの方もいらっしゃると思いますが、この問題に対しては、表示に関する知的財産が主に関わっているといえます。そして、種々の表示は、主に商標法、不正競争防止法(食品衛生法はここでは割愛します)で保護されることを通じて、その奥に存在する信用、信頼の保護を図っています。

例えば、商標登録されている地域ブランド(地域団体商標)を偽造した場合、商標法違反となり、その製造等の差止め、損害賠償などを請求することができます。これは皆さんもよく理解していらっしゃるかと思います。一方、商標法では保護しきれない場合には、不正競争防止法(以下、「不競法」といいます)が登場します。例えば、○○産(○○は商標登録されていない)と偽造した場合には、不競法違反となり、同じくその製造等の差止め、損害賠償などを請求することができます。

具体的には、不競法2条13号でいわゆる虚偽表示に関する行為が不正競争行為として定められ、規制の対象となっています。(同法2条13号「商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為」)。この虚偽表示の規定は、非常に広く使える規定でありますので、近年問題になっている産地偽装の問題でもよく使われています。

しかし、いくらこのような規定があっても、罰則や損害賠償が大したものでなければ、産地偽装のやり得になりますね。真面目にやっている会社にとっては腹立たしいことですし、消費者としても納得いかないことです。では、不競法違反の場合にはどのような規定があるのでしょうか。不競法違反の場合には、上述のように損害賠償、それ以外にも罰則の適用があります。例えば、実際に営業上の利益を侵害された者が請求すれば、損害賠償が認められることになります(同法4条「故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる」)。同業他社や業界団体が集まって、損害賠償請求することが考えられるでしょう。実際の損害額は、産地偽装による行為と相当因果関係のある額か、産地偽装をした者が利益を受けているときは当該利益が損害額と推定されます(同法5条2項)。通常、産地偽装の場合は、当該産地表示をすることで、高い価格で販売できていると思われますので、この価格差が産地偽装による利益であり、不競法上の損害額と推定される可能性があるでしょう。利益は全てとられてしまいますので、産地偽装しても割には合わないこととなります。また、罰則についても、産地偽装を不正目的をもって行った者は、五年以下の懲役又は(及び)五百万円以下の罰金なります(同法21条2項1号)。さらに、産地偽装をした法人は、実際に産地偽装を行った者とは別に、三億円以下の罰金刑の対象にもなります(同法22条1項)。社長の指示で産地偽装を行ったような場合には、これらの罰則規定に該当する可能性が十分でてくるでしょう。

このようにいくつかの規定はあるのですが、世の中には周知されていないように思います。産地偽装を行い、会社が利益をあげても、それが全てなくなり、加えて刑罰を受けるということならば、そのような産地偽装が少しはなくなってくると思います。また、このような産地偽装は、最終的に消費者を欺くことでありますので、消費者(私も一消費者ですが)にとってメリットはありません。本来ならば安く買える商品を高く買わされているので、大きなデメリットです。また、産地偽装が蔓延すれば、消費者は消費自体に慎重になり、業界全体の売上、利益にも大きな影響が出るでしょう。でも、見つからなければ、ということで産地等の偽装も後を絶たないことも考えられます。では、どうすればよいのでしょうか。

j0398005.wmfそもそも知的財産は、その侵害行為、不正な行為を発見しにくいものです。知的財産が無体物、情報財といわれることからもその性質が伺えます。産地偽装等の表示についても、全て容易に発見できるとはいえません。しかし、その侵害等の行為を発見していく努力をしていかないと、その侵害等の行為はなくなっていくことはないでしょう。楽して利益を上げることができ、侵害し得といえるからです。今、産地偽装の問題を契機に、表示に対する信用、信頼が大きく揺らいでいると思います。表示に対する信用の欠如は、ひいては社会全体の信用の欠如、社会全体の活力低下にもつながりかねません。不正な行為へのチェック機能を働かせることは簡単ではありませんが、このような意識をもって表示に接しておくことが必要でしょう。また、企業や官僚に全てお任せという意識ではなく、表示に対する法律等の各種規制の動向(罰則の強化等)にも注意を払い、我々自身が表示を信用、信頼できる社会、住みよい社会にしていく必要があるようにも思います。

以上、主に産地偽装の問題から表示に係る知的財産について述べましたが、侵害行為の放置が大きな影響を与えるのは、産地以外の表示を用いて行う企業活動においても同じです。他者の類似表示(商標)を放置するのは、産地偽装と同様に消費者を含めて悪影響を及ぼします。産地以外の表示であっても、上述のようなチェック機能、コントロールを働かせることが重要でしょう。そして、このコントロール機能を働かせるためには権利化することが最適ですが、権利化だけに留まらず、権利化後のチェック機能、コントロール機能を働かせることまで留意するのが大切といえます。


2008年10月27日
弁理士 鶴本 祥文
古谷国際特許事務所