お風呂にまつわるエトセトラ ~実務上の商品類否~

みなさん、こんにちは!斉藤です。前回コラムは夏真っ盛りの8月でしたが、気がつけばもう10月も半ばを過ぎ、上着が手放せない季節になりました。
これからやってくる寒い季節、みなさんは何を思い起こされますか?お鍋、こたつ、みかん・・・でも、私の場合はやっぱり「お風呂」ですね!冷えた手足が湯船の中でジーンと暖まっていく感触がたまりません。
という訳で、今回は私の大好きな「お風呂」を例に、「商品の類否」を見てみようと思います。お風呂に入りながらもついつい商標のことを考えてしまうのは一種の職業病でしょうか?

j0404882.jpgさて、お風呂をぐるりと見渡すと、いろいろな商品が見つかります。例えば、シャンプーとリンス。なんだか似ていますよね。シャンプーと思って頭につけたら、いくら擦っても全然泡立たない・・・っていうかリンスやん、コレ!!・・・というような経験をされた方は多いと思います。また、お店でもシャンプーとリンスがセットで販売されている光景をよく目にしますね。
そんな紛らわしいシャンプーとリンスですが、特許庁の審査実務上は非類似の商品*1として扱われます(シャンプーは「せっけん類」、リンスは「化粧品」に含まれます*2)。例えば、「ABC」という商標がシャンプーについて先に登録されていても、別の人が全く同じ「ABC」という商標をリンスについて登録することも可能です*3。ええっ、それじゃ間違えて買ってしまうって??そうですね、たとえ特許庁の審査実務上は類似しない商品だといっても、お客さんが間違って買ってしまうような紛らわしい商標の使用は認められるべきではありません。例えば、花子さんの「ABC」というシャンプーが大ヒットしているところに、太郎さんが「ABC」というリンスを後出しで販売すると・・・お客さんは花子さんの「ABC」シリーズのリンスだと思って、間違って買っちゃいますよね。いくら太郎さんが「シャンプーとリンスは類似しない商品だから問題ない!」と言い張ったところで、こういう行為はいわゆる不正競争*4に該当するとして、差止請求や損害賠償請求の対象になり得ます。また、太郎さんが商標「ABC」を商品「リンス」について登録しようとしても、花子さんの商品と紛らわしい(混同を生ずるおそれがある)として、拒絶されるでしょう*5

ちょっと難しい話でしたね。ここは一つ、お風呂に何かいい香りのものを入れてリラックスしましょう☆

さて、何を入れましょうか?バラの香りのバスオイル?温泉気分が味わえる入浴剤?もしお風呂に「バスオイル」を入れたのなら、それは第3類「化粧品」の範疇に属する商品、もし「入浴剤」を入れたのなら、それは第5類「薬剤」の範疇に属する商品のため、これらも特許庁の審査実務上は非類似の商品*6として扱われます。「バスソルト」や「入浴剤」はお風呂に色や香りをつける点では共通していますが、商標実務における「入浴剤」は薬効があるものや身体の洗浄効果があるもの、「バスソルト」や「バスオイル」はそのような効果がなく単に色や香りを楽しむもの(いわゆる「浴用化粧品」)をいいます。とはいえ、現実にはドラッグストアなどの売り場を見ても、入浴剤とバスソルトは同じ棚に陳列されていることが多く、中には薬用のバスソルトや単に香り付けのみの入浴剤があったりしますので、そう簡単に割り切れるものではありません。先のシャンプーとリンスについても言えることですが、審査基準上の類否概念と一般的な(常識的な)類否概念が完全に一致していると言い難い商品*7については、商標登録出願や先行商標調査を行うにあたり、十分に注意する必要があります。

またまた話が難しくなってしまいました。シャンプーや入浴剤のことは忘れて、ノンビリとお風呂につかることにしましょう☆

j0391052.wmfどんなお風呂につかりましょうか?檜製の風呂桶?FRP製のユニットバス?ここで、特許庁商標課編の「類似商品・役務審査基準」を見てみると、第11類に「浴槽」という記載がありますが、全てのお風呂(風呂桶)がこの「浴槽」の概念に含まれるかというと、そうではありません。「浴槽」に付された類似群コード*8を見ると、19B04となっていることから、この「浴槽」は、昭和分類でいうところの第19類「日用品」の概念に属する商品ということになります*9。旧審査基準上、この概念には他にどういう商品が含まれていたかというと、「腰かけ」や「手おけ」、「風呂底板(五右衛門風呂の下に敷く板ですね)」などです。つまり、檜の浴槽や五右衛門風呂、洋風のバスタブなど単独で売買されるような浴槽は、いわゆる日用品である第11類「浴槽」の範疇に属すると考えられますが、家やマンションを建築する際に組み込まれる「ユニットバス」などは、日用品・・・とはちょっと違いますよね。こちらは、いわゆる建材の概念に含まれると考えられます。もう一度、第11類の類似商品・役務審査基準を見てみましょう。「浴槽」とは別に、「浴室ユニット」という商品が見つかる筈です。この「浴室ユニット」の類似群コードを見ると、07A04、即ち、昭和分類における第7類「建築構築専用材料」の範疇に属する商品ということがわかります。つまり、いわゆる「ユニットバス」は、この「浴室ユニット」の概念に含まれる商品なんですね。もちろん、特許庁の審査上、いわば日用品グループである「浴槽」と建材グループである「ユニットバス」はそれぞれ非類似の商品として扱われます。各商品に付される「類似群コード」は単なる記号としか見ていない方も多いと思いますが、実はこのように元々どの昭和分類のどの概念に属していたかを知ることができる「ルーツ記号」の役割も担っていますので、その商品の属性を知る上でとっても役に立つものなんです*10

では、お風呂を上がる前に顔を洗ってサッパリしましょう☆

何で顔を洗いますか?昔ながらのせっけん?洗顔に特化した洗顔料?体の汚れを落とすことができるという点で共通の用途・効能を有する商品ですが、どちらも第3類「せっけん類」の範疇に属する商品かというと・・・一概にそうとは言えません。せっけん程度ではなかなか落ちない顔の皮脂汚れやファンデーションの残りなどを落とすのには一般的にクレンジングローションなどが用いられますが、この「クレンジング」関連商品は、審査実務上、「せっけん類」ではなく、「化粧品」の範疇に属するとされています。そのため、審査実務上、「洗顔料」については、「せっけん類」の類似群コードである04A01と、「化粧品」の類似群コードである04C01のどちらもが付与されます。つまり、「洗顔料」の商標を採択するにあたり、どのような洗顔料かを確認せずに「洗顔料」≒「せっけん」と考えて「せっけん類」だけについて調査/出願を行うと、痛い目にあうことになります*11

お風呂関連商品の話はまだまだ尽きることがありませんが、あまり長風呂しすぎるとのぼせてしまいますので、今回のお話はここまでにしましょう!
そうそう、お風呂の楽しみといえば、お風呂上がりの冷えたビールも最高ですよね!「ビール(28A02)」は「ワイン,ウイスキー(28A02)」に類似する一方、「日本酒,焼酎(28A01)」とは非類似の商品ですのでご注意を♪

それでは、また!


2008年10月27日
齊藤 整
特許業務法人 クレイア特許事務所

-------------------------------------------------------------------------------
注1)正確には、類似商品・役務審査基準上、非類似の商品と「推定」される。推定である以上、反証により類似と認められる場合もあり得る。特に最近では審査基準上類似とされている商品等を非類似と判断する審決例が増加している。この一年をみても、不服20006-65103、同2006-16635、同2007-9925、同2008-879、同2005-13680、同2008-5998、同2007-32604等々、多くの審決において類似推定が覆されている。
注2)「シャンプー」は第3類「せっけん類」(類似群コード:04A01)に属し、「リンス」は第3類「頭髪用化粧品」(類似群コード:04C01)に属するため、両者は非類似の商品と推定される。
注3)我が国においては、商品が類似しなければ商標の類似は成立しない。つまり、出願商標が先行商標と同一・類似であったとしても、商品が非類似であれば、先願先登録商標と同一・類似の後願を排除する4条1項11号の適用はない。
注4)いわゆる「周知表示混同惹起行為」(不正競争防止法2条1項1号)に該当し得る。2条1項1号が適用されるためには周知と混同が要件となるが、たとえ混同のおそれがなくとも、甲の商品表示が著名であれば、乙の行為は著名表示冒用行為(同法2条1項2号)に該当する余地もある。
注5)商標法4条1項15号(他人の業務に係る商品等と混同を生ずるおそれがある商標)に該当し得る。
注6)「バスオイル」は第3類「化粧品類」(04C01)に属し、「入浴剤」は第3類「外皮用薬剤」(01B01)に属するため、両者は非類似の商品と推定される。
注7)例えば、25類「スーツ(17A01)」と「ワイシャツ(17A02)」、19類「セメント(07B01)」と「モルタル(07A02)」、9類「コンピュータ用ゲームプログラム(11C01)」と「家庭用テレビゲームおもちゃ用ゲームプログラム(24A01)」など、世間一般では紛らわしいと思えても審査基準上非類似と推定される商品は枚挙に暇がない。
注8)特許庁では、全ての指定商品・指定役務に対して「類似群コード」と呼ばれるコード(数字2桁+ローマ字1桁+数字2桁)を付与し、「類似群コード」が同一の商品・役務は原則として「類似」すると推定し、「類似群コード」が異なると「非類似」と推定して審査を行う。同じ類似群コードを持つ商品群は同一区分内に限られず、たとえ区分が異なっても共通の類似群コードが付された商品等については、互いに類似と推定される(他類間類似)。
注9)類似群コードの頭2桁は、昭和34年法制定から平成4年の国際分類導入まで用いられた「昭和分類」の区分を表す。また、類似群コードのローマ字1桁は、その区分における大概念と対応している。即ち、「19Axx」は旧19類「台所用品」、「19Bxx」は旧19類「日用品」・・・という具合である。
注10)「商標出願の対象となる商品及びサービスの国際分類に関するニース協定」に基づく現行の国際分類は「材料主義」を採用するのに対し、いわゆる旧分類(昭和分類)では「用途主義+販売店主義」が用いられていたため、類似群コードにより昭和分類上どの区分に属する商品であったかを知ることは、その商品の属性(材料・用途・需要者等)を知る上で重要な手がかりとなる。因みに、旧々分類(大正分類)においては「材料主義」が採用されていたため、注意が必要である。詳しくは、「商品及び役務類別変遷集(第8版)」(2002年発明協会、特許庁商標課編)を参照されたい。
注11)取消2007-300838では、第3類「薫料,化粧品」を指定商品とする本件商標登録に対して不使用取消審判が請求され、通常使用権者による「クレンジング機能をもった洗顔料」についての使用証明がなされた結果、「化粧品」の使用にあたるとして登録が維持された(被請求人の使用答弁に対する請求人の弁駁なし)。因みに、単に「洗顔料」として出願を行うと04A01と04C01のダブルコードとなることは上述の通りだが、「洗顔・クレンジング機能をもった洗浄用化粧品」とすると04C01(化粧品)のみが付与され、「洗顔せっけん」とすると、04A01(せっけん類)のみが付与される。