商標法及び不正競争防止法と商号(会社名)との関係について

皆様、はじめまして、弁理士の垣木晴彦(かきぎはるひこ)と申します。はじめに簡単に自己紹介をさせて頂きます。
現在は、アルカディア知財事務所をもう一人の弁理士と共に共同経営致しております。私は、商標(外国商標含む)だけでなく、意匠(外国意匠含む)、著作権、不正競争防止法、各種契約に関する業務を専門としており、また特許に関しても簡単な機械や日用品等についての業務を行っております。
最近では、お客様が新しい事業を展開する上で、どのように知的財産権を活用して行かれると事業の業績が伸ばせて行けるかについても大変興味をもっております。
休みには、妻と一緒にスーパー銭湯でのんびりしたり、また時々温泉地に行って温泉につかって何もしない贅沢をするのが至極の楽しみとなっています。

今回は、知っているようで意外に知らないと思われる商標法及び不正競争防止法と商号(会社名)との関係についてお話をさせて頂こうと思います。

何か新しい事業をはじめようとされる場合、先ず会社の設立を考えられる方も多いと思われます。 building3.JPGまた、大企業様であれば別途新会社を設立して新しい事業をさせようと考える場合も多いと思われます。この場合に、何らかの会社名を考えられ、例えば「○○○株式会社」という会社名を使用されることになると思います。この会社で経済活動をされる場合には、会社登記簿に商号登記をしないとその会社に法人格が認められないことから、通常は司法書士さんに依頼して商号登記をしてもらうことになります。
しかし、平成17年の商法等の改正及び会社法の新設に伴って、従来は商号登記をするためには同一の市町村内に同一又は類似の商号がないことが条件であり、これについて法務局が事実上審査してくれていましたが、現在では同一の住所かつ同一の商号でない限り法務局による商号登記の拒絶はなされず、すべて商号登記がなされてしまいます。すなわち、実質的に商号権の効力が弱められたものと考えられます。
このような状況下でより強い力を発揮するのが商標権となります。「○○○株式会社」又は「○○○」について商標権を取得することができるのであれば、この会社名を商標登録出願して商標権を取得しておけば、第三者が当該会社名を指定商品又は指定役務等に使用してきた場合には、商標権に基づいてこれらの使用を排除することができます。
特に、インターネットの顕著な発達によって、ホームページにより宣伝広告を行うことが当たり前になった現在では、同一の会社名を有する同一の業務を行っている会社が複数存在する場合、会社名について商標権を取得しておくと、他の地域の会社の会社名の商標としての使用を排除できる可能性が高いと思われますので、実質上自己の会社名と同一又は類似の会社名の使用を排除できる可能性が大いにあるものと思われます。
逆に言うと、自己の会社名を商号登記しているだけでは、第三者に商標権を取得された場合には、その会社名を商標として使用することができなくなり、業務に支障が出てくることも十分に考えられますので、注意が必要であると思われます。
私の経験でも、商標制度をご存じではなく事業を開始されてしばらくしてから、自己の会社名について商標権を取得しておく必要性に気づかれて相談に来られ、商標調査をしたところ、営業開始前には出願されていなかったのですが、その後に第三者に出願されて商標権を取得されてしまっているケースも現実にありました。
ですから、新しい事業を開始される場合はできれば自己の会社名についての主要な業務については商標調査をされた上で、商標権が取得できそうであれば是非とも商標出願されることをお勧め致します。

signboard2.JPGまた、会社名を採択される場合に我が国で周知又は著名な会社の会社名又はグループ名を含むような会社名を採択される場合も見られます。このような会社名を採択されるのは周知又は著名な会社の会社名又はグループ名の信用にフリーライド等することを目的としている場合が多いと思われます。
この場合でも商号登記はなされる場合も多いと思われます。これに対しては、周知又は著名な会社が商標権を取得していれば商標権侵害として警告及び差止請求訴訟等の提起等を受けるものと思われますが、商標権が取得されていない範囲に使用されるものであっても不正競争防止法2条1項1号(周知標章等冒用行為)又は2条1項2号(著名標章等冒用行為)に該当する行為として警告及び商号使用差止請求訴訟等の提起がなされる可能性があります。
また、その訴訟において不正競争防止法2条1項1号又は2条1項2号に基づく場合には商号抹消請求も認められますので、注意が必要です。
不正競争防止法2条1項1号又は2条1項2号に基づく商号に関する判例は思ったよりは多くありますが、比較的最近のものとして例えば以下のようなものがあります。

①2条1項1号に基づいて商号抹消請求が認められた判決例
 *東京地裁 平成12年(ワ)第4495号
  「三菱」=「三菱建材株式会社」
 *東京地裁 平成16年(ワ)第13859号
  「読売」「讀賣」=「読売企画販売株式会社」
②2条1項2号に基づいて商号抹消請求が認められた判決例
 *大阪地裁 平成15年(ワ)第6624号
  「Maxell」=「株式会社日本マクセル」

 いずれにしても、会社名として商号を採択する場合には、商号登記だけでなく、商標法及び不正競争防止法の観点からの検討も大変重要だと思われますので、皆様も是非とも十分に考慮して頂ければと思います。


2008年12月8日
弁理士 垣木 晴彦
アルカディア知財事務所