スモーカーに逆風 ~商標の世界にも影響が?!~

新年あけましておめでとうございます。はじめまして、弁理士の桶野清香です。あーく特許事務所で商標業務を担当しており、外国商標案件が8割以上を占めています。

今回は、昨年11月中旬に開催されたINTA(International Trademark Association)のLeadership Meetingという会合の際、私が所属している東アジア・パシフィック地域の商標法制度検討委員会で挙げられた検討議題を一つ紹介させていただきます。この委員会メンバーはアジア・オセアニア各国の実務家から構成されており、各国の法改正など、商標法に関連する議題は何でも検討対象となっています。法改正の動向がいち早く入手できるのが、最大のメリットでしょうか。ちなみに2007年秋の第3次商標法改正案で、いよいよ異議待ち審査制度に切り替えか?と騒がれた中国でしたが、1年以上の紆余曲折を経て大きく方針転換することとなったようです。結局、実体審査は維持する方向で、今年中旬を目処に第4次改正案を検討中だそうです。

さて、本題ですが、みなさんは、タバコを吸われますか?吸ったことがありますか?私は一度もありません。一家揃って嫌煙家でしたので、特にタバコを吸うことに憧れたことはありませんが、父の誕生日に灰皿をプレゼントできないことを子供心に残念に思った記憶があります。

禁煙2.bmp厚生省やJT(日本たばこ産業株式会社)による各種統計を見ると、日本人の喫煙率は概ね減少傾向にあるようですが、20代、30代の女性に限ってみると増加傾向にあるようです。近年、タバコにまつわる環境は、世界的に大きく変化しており、タバコの包装に、喫煙に起因する健康被害に関しての警告文の掲載が大きく表示されるようになっています。海外でタバコを買われたことのある方の中には、衝撃的な警告文・写真に驚かれた方も少なくないと思います。

昨年、オーストラリアの予防医療に関する特別対策委員会のワーキンググループにより作成された「タバコ規制に関する報告書」なるものをご存知でしょうか?70ページにも及ぶ長い報告書ですが、日常的な喫煙をいかに減少させるか、そのための二大策として、①タバコ税の増税、②メディアキャンペーンの強化、が挙げられています。これに加えて、世界初の試みとして、『タバコのプレーンパッケージ化』が提唱されています。

タバコのプレーンパッケージ化は、特にイメージを重要視しがちな十代の若者に大きな効果が期待できると考えられています。ある消費者調査によると、タバコのパッケージからデザイン的要素を減少させることで、喫煙に対する肯定的なイメージや魅力の削減効果が期待できると示唆されています。

では、プレーンパッケージ化とはどんなものなのでしょうか?上記の報告書から一部抜粋させていただきます。

Plain packaging would prohibit brand imagery, colours, corporate logos and trademarks, permitting manufacturers only to print the brand name in a mandated size, font and place, in addition to required health warnings and other legally mandated product information....  A standard cardboard texture would be mandatory, and the size and shape of the package and cellophane wrapper would also be prescribed.

プレーンパッケージ化により、タバコのパッケージの外装に、ブランドイメージやブランド特有の色彩(配色)、企業ロゴ、商標を付すことが禁止されます。一方、ブランド名は、規定の位置に規定の文字サイズ・フォントで印刷されることとなり、タバコの箱に用いられる素材や、箱の大きさ・形状はもとより、セロハンの包装紙も標準化が求められます。このように、ブランドに関する情報を極力抑えた上で、パッケージの表面の90%、裏面100%を所定の健康への警告表示等に充てようという試みです。

たばこ2.bmpつまり、仮にこのプレーンパッケージ化案が成立すれば、スモーカーも、街角のタバコ屋のおばあさんも、同じ位置に同じ書体、同じ大きさで書かれたブランド名のみを頼りに、商品を区別し販売・購入することを余儀なくされるわけです。オーストラリアで提出された前出のプレーンパッケージ化案によると、商品識別のために許容される面積は、タバコのパッケージ表面中10%に留まります。これは、模倣品対策上にも、大きな影響を与えそうです。ラクダの図柄のない「CAMEL」と「GAMEL」は瞬時に区別可能でしょうか?

昨今、音響商標や色彩商標など、非従来型の商標をも広く保護していこうというのが世界の趨勢ですが、タバコ業界はこれに反して、今後、標準字体の文字商標のみが保護対象とならざるを得ないという状況も考えられます。既に登録されている各社のロゴ商標やパッケージ商標などは、数年後にはいずれも不使用商標であって、実質的に保護を維持できない状況にあるかもしれません。

さて、このようなタバコのプレーンパッケージ化、日本で採択されることとなったら、みなさん、賛成ですか?反対ですか?


2009年1月13日
弁理士 桶野清香
特許業務法人 あーく特許事務所