商標ライセンスにまつわる"税"のお話

みなさま、はじめまして。
マークス国際弁理士事務所で国内外の商標業務を主に担当しております弁理士の三上真毅です。

 簡単に自己紹介しますと、世界遺産「姫路城」のある町が生まれ故郷です。1つ年上の兄のお蔭で、少年時代の思い出といえば剣道、サッカーの次に兄弟喧嘩が浮かんできます。大学時代に関東弁をマスターし一度は魂を東京に売りましたが、卒業してから関西一筋、15年。今ではすっかり東京っぽさも消え、カントリー・ジェントルマンを目指して週末は自宅の畑を耕し、近隣のゴルフ場を散策することに勤しんでおります。

 さて、衆議院選挙を控え、今年の夏は天候よりも政治に暑い日が続きそうな予報が出ております(?)
 各政党が発表したマニフェスト(政権公約)には税制改革が盛り込まれておりますが、税金の問題は知的財産とも決して無縁ではありません。日本企業が海外子会社から徴収すべき商標使用料の申告漏れを国税庁から指摘される報道を目にしますと、商標に潜む"税"の存在に改めて気付かされます。
 そこで、今回のコラムでは、商標ライセンスにまつわる"税"の話題を簡単に取り上げたいと思います。
2009004_02.gif (なお、本稿では、日本国内で登録された商標に基づく商標ライセンスを前提としております)

 商標ライセンスには専用使用権と通常使用権があることは、みなさまご存知でしょう。
 通常使用権が商標権者(ライセンサー)と使用許諾を受ける者(ライセンシー)との合意によって生じ、登録が必ずしも必要ではないのに対し(ただし、登録することによって第三者に対抗できるようになります)、専用使用権は登録によって効力が発生します。
 このため、専用使用権を設定し、また、通常使用権の登録を希望する場合*1 には特許庁に届け出ますが、このとき納付しなければならない税金が、登録免許税(1件毎に30,000円)です。

 そして、実務上、商標ライセンスの条件について使用許諾契約書を締結し、「ライセンス使用料」に関する規定を設けますが、このライセンス使用料にはみなさまの日常生活に非常に馴染みの深い消費税(!)がかかります。
 消費税は国内取引(国内において事業者が行った資産の譲渡や貸し付け等)に対して課せられますが、商標ライセンスはライセンサーの資産をライセンシーに使用させる行為に該当するため、国内取引に該当します。このため、ライセンス使用料が消費税込みの金額なのかどうか、しっかりと話し合っておく必要があります。間接税とはいえ、納税義務者はライセンサーです。たかが5%、されど5%。
 ライセンサーが日本法人か外国法人かによって基本的に相違はありません。しかしながら、例外的に、非居住である外国のライセンサーが、同一の商標について2国以上において商標権を有する場合には消費税の対象とはなりません*2

 さて、ここからちょっとだけややこしい話になりますが、ライセンス使用料は法人税および源泉所得税の課税対象にもなります。
 ライセンサーが日本法人の場合には、ライセンシーは源泉徴収することなくライセンス使用料をランセンサーに支払えば足りることから(なお、ライセンサーは事業年度中の所得を総合して「申告納税」を行います)、ややこしいことはありません。

 ところが、ライセンサーが非居住者である外国法人の場合には事情が異なります(厳密には、外国法人でも恒久的施設の有無や種類によって異なりますが、ここでは、非居住者である外国法人として取り上げます)。下の図のように、ライセンシーはライセンス使用料の20%の金額を源泉徴収して管轄税務署に支払う必要があります。しかも、この税率は日本が外国法人の国と租税条約を結んでいる場合には、一般的に源泉所得税は10%に軽減(アメリカ、イギリス、フランスについては免税*3)されます。
 このため、ライセンサーが外国法人の場合には、日本と租税条約を締結している国かどうかを確認し、適用税率に応じた源泉徴収分を除いたライセンス使用料を支払うことになります。
 なお、源泉徴収を失念した場合にはライセンシーに対して不納付加算税および延滞税が追徴されてしまいます。
2009004_01.gif  

 さらに、ライセンシーがライセンサーの海外子会社の場合、設定したライセンス使用料が独立企業間価格*4 に比して乖離し、このためライセンサーの所得が減少している場合には、法人税の算定に当たって、独立企業間価格に基づいて所得が再計算され、増額更正されるので(移転価格税制)、子会社だからといって一般的なレベルと著しく異なるライセンス使用料の設定は却って問題を生じることになります。

 余談ですが、商標ライセンスにおいて必要ではないものの、商標権を譲渡する場合には契約書に印紙を貼付(印紙税)しなければなりません*5。さきほど消費税について触れましたが、契約書に記載された商標権の「譲渡対価」と消費税の金額とが区分して記載されている場合には、消費税額分は印紙税の対象金額に含めないこととされますので*6、契約書記載の金額には消費税を区分しその旨を記載しておくことが賢明です。

 簡単に、とは言いながら、ちょっとだけややこしい商標ライセンスにまつわる"税"のお話をしてしまいました。 2009004_03.gif
 とりあえず、『インゲン一等賞(印・源・移・登・消)』と覚えてみては如何でしょう。

 "税"は、みなさまの日常生活だけでなく知財にも関連する話題ですので、各政党のマニフェストをよく読んで、投票しましょう(by選挙管理委員会)。


2009年8月1日
弁理士 三上真毅
マークス国際弁理士事務所

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*1)使用権の設定件数(2008年):専用使用権 344件、通常使用権 139件
*2)消費税法施行令6条1項5号括弧書
*3)日米租税条約(平成16年3月30日発効)、日英租税条約(平成18年10月12日発効)、新日仏租税条約(平成19年1月12日署名)では、免税。
*4)独立した非関連者間で取引が行われたとすれば通常成立したであろう対価
*5)印紙税額については、国税庁インターネット・ホームページ掲載の「印紙税額一覧表」をご参照下さい。
*6)平16課消3-5改正「消費税法の改正等に伴う印紙税の取扱いについて」