事例で見る中国における商標の識別力に関する実務
一、商標登録の基本要件
商標の最も重要な役割は、商品または役務の出所識別機能である。中国商標法第9 条「登録出願にかかる商標は、顕著な特徴を有し、容易に識別でき、かつ他人の先に取得した合法的権利と抵触してはならない。」の規定からもわかるように、商標の登録出願には、次の三つの要件を同時に備えなければならない。
① 商標自体の構成要素が顕著な特徴を有しなければならない。
② 商標が識別可能でなければならない。
③ 他人の先に取得した合法的権利と抵触してはならない。
言い換えれば、識別力がある商標は、その構成要素が顕著な特徴を有するだけでなく、他人の登録商標、先願商標とも区別可能でなければならない。本文では商標自体の登録可否の事例を以って中国商標法にある商標の顕著な特徴と識別力について説明する。
二、商標の識別力に関する基準
商標登録に必要な識別力について、中国商標法第 11 条と第12 条では明確に定義しているだけでなく、「商標審査及び審理基準」でもその認定基準が定められている。ここでは実例を以ってその基準を説明する。
法律規定 |
商標 |
指定商品/ 役務 |
登録可否 |
説明 |
商標法第11条1項 の(1)
「単なるその商品の普通名称、図形、型番にすぎないものは、商標として登録することができない」 |
MULLER
|
研磨機
滑車 |
×
○ |
研磨機とは無関係で、かつ消費者に誤認を与えない商品に使用すれば、登録可能。 |
|
果物
文房具
|
×
○
|
被服、電子製品、文房具など図形とは無関係で、消費者に誤認を与えない商品に使用すれば、登録可能。 | |
|
服装
甘栗 |
×
○ |
この種のアルファベットの組合せが常用でない商品に使用すれば、登録可能。例えば食品。 |
上記の事例からも、商品の普通名称又は図形の登録可否は、その指定商品または役務とは密接に関わっていることがわかる。
法律規定 |
商標 |
指定商品/ 役務 |
登録可否 |
説明 |
商標法第11条 1項の(2)
単なる商品の品質、主要原材料、効能、用途、重量、数量及びその他の特徴を直接表示するにすぎないものは、商標として登録することができない。 |
好香 (注:良い香りの意味) |
米 |
× |
品質のみを表示 |
百元店 (注:百円ショップの意味) |
セールス |
× |
商品の価格のみを表示 | |
女过四十 (注:四十過ぎ女の意味) |
営養製品(医療用のものを除く) |
× |
商品の特定な消費対象のみを表示 | |
AMERICAN NATIVE |
たばこ |
× |
生産地のみを表示 |
ただ、出願商標が上記のような文字または図形から構成されるが、消費者に誤認を与える可能性のない商品に使用する場合は、この限りではない。例えば、たばこに使用する「555」商標、米に使用する「纯净山谷」(清浄な谷間)商標など。
法律規定 |
商標 |
指定商品/ 役務 |
登録可否 |
説明 |
商標法第11条1項 の(3)
そのほかの識別力を欠くものは、商標として登録することができない。例えば、簡単すぎるものまたは複雑すぎるもの。 |
网购 (注:ネットショッピングの意味) |
パソコンソフト |
× |
ネットショッピングはよく見られる電子商取引で、識別力がないため、登録不可。 |
|
粉ミルク、栄養食品 |
× |
複雑すぎて特別顕著性が無いため、登録不可。 | |
|
タバコ |
○ |
商標登録の禁止事由さえなければ、タバコとお酒のラベルが、特殊業界の慣例として全体として登録可能。 | |
|
ビール |
○ | ||
|
新聞 |
○ |
出版資格を有する雑誌、新聞の名称である場合、たとえ識別力を欠けていても、登録可能。 | |
商標法第11条2項
前項に掲げる標章が、使用により識別力を有し、かつ容易に識別可能なものとなった場合には、商標として登録することができる。 |
American Standard |
湯沸器 |
○ |
文字自体が識別力を有しないが、長期に亘る使用により、既に高い知名度を得ており、各指定商品に使用されても商標として識別可能であるため、登録が認められた。 |
(注:「両面針」は植物名である) |
歯磨き |
○ | ||
BP |
工業用化学品など |
○ |
普通の書体からなる二つのアルファベットの組合せは、識別力を欠くものとして認識されるのが一般的であるが、BPは長期にわたる大量の使用により、公衆に熟知されているため、商標としての出所識別機能が認められた。よって、何回も出願の末、本件の登録が最終的に認められた。 | |
汇聚点滴,成就美好 (注:少しずつの努力で、成功を成し遂げるの意味) |
教育、トレーニング |
× |
オリジナルティを有せず、役務の内容を表示したため、登録不可。 | |
木匠是朋友 Woodman is friend |
工業用接着剤 |
○ |
流行用語ではなく、商品とも直接な関係がないため、登録可能。 | |
組合せ商標の場合、識別力を欠く部分以外に、識別力がある部分も含まれていれば、商標全体が商品の出所を識別することができるため、登録可能である。 |
|
動物食品 |
○ |
文字「牛奶活力精华」(ミルク活力エキス)は識別力がないが、図形部分が識別力を有するため、商標全体が登録可能。 |
立体商標の登録が認められた事例は多くないが、特例として香水瓶が業界の特殊性(ブランドの特徴を出すため、通常、異なるブランドの香水は異なる瓶を使っている)により、登録になる可能性が高い。そのほかの商品の外観や包装と関係のある立体商標について、よく見られる製品の外観または包装として認識されやすく、登録が難しい。この場合、商標全体の識別力が高まるよう、識別力がある文字を商標に付け加えることを提案する。
なお、通常、キャラクターは立体商標として登録が認められる可能性が非常に高い。
法律規定 |
商標 |
指定商品/ 役務 |
登録可否 |
説明 |
商標法第12条 立体標章をもって商標出願する場合、単にその商品自体の性質により生じた形状、技術的効果を得るための不可欠の商品形状、又はその商品に本質的 な価値を備えさせるための形状である場合には、これを登録してはならない。 |
|
ホテル |
○ |
Mの立体デザインの識別力が高く、典型的な立体商標である。 |
|
栄養食品 |
○ |
指定商品とは無関係のため、登録可能。 | |
|
紙、印刷品 |
○ |
四面図で立体の特徴を表している。また、指定商品とは無関係のため、登録可能。 |
三、まとめ
商標の識別力に関する認定は比較的に複雑な問題で、スローガン式の商標、組合せ商標や図形商標、とりわけ立体商標について、商標法で定めている識別力を備えているか否か、即ち商品、役務の出所を識別できるか否かに関する判断基準が常に議論されている。もし出願人の商標が上述の情状により拒絶を受けた場合、出願商標の使用証拠や他国や他地域での登録状況などの資料を提出すれば、識別力の立証には有利である。
参考文献:
「中国商標法」
「中国商標審査及び審理基準」
2011年6月23日
Dayup Intellectual Property Co., Ltd.
商標弁理士 王 小青Xiaoqing WANG
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